脳クレアチン欠乏症候群とは?
脳内のクレアチンが不足することにより、知的能力障害、発達障害、てんかん、不随意運動などの症状をきたす疾患の一群です。
クレアチンはエネルギーを蓄える働きがありますが、これが十分ないため、脳などのエネルギー需要が高い臓器の症状が出やすいと考えられています。
後述するGAMT欠損症、AGAT欠損症は治療可能な疾患ですので、正しく診断するのは重要です。
脳クレアチン欠乏症候群の原因は?
クレアチンの合成障害が2つ、輸送障害が1つ知られています。
クレアチンはアルギニンとグリシンから以下のように作られます。
- アルギニン + グリシン → グアニジノ酢酸 + オルニチン(AGATという酵素による)
- グアニジノ酢酸 + S-アデノシルメチオニン → クレアチン + S-アデノシルホモシステイン(GAMTという酵素による)
作られたクレアチンは、クレアチントランスポーター(輸送体)により、細胞内へ取り込まれます。
クレアチンの合成障害として、AGAT欠損症、GAMT欠損症が知られています。輸送障害として、クレアチントランスポーター欠損症が知られています。
クレアチントランスポーター欠損症はX染色体劣性遺伝ですので、男性に多くみとめられます。ただし、女性の保因者でも軽い症状が出ることがあります。
脳クレアチン欠乏症候群の診断手順
原因不明の知的障害、発達障害、てんかんなどの神経症状を示す患者を診た場合、脳クレアチン欠乏症候群の可能性を思い浮かべます。本症候群を積極的に疑って調べない限り、通常の検査で見つけることはできません。
頭部プロトンMRS(MRスペクトロスコピー)により、上記3つの疾患を一度にスクリーニングできます。ただし、鎮静がしばしば必要で(安静への協力が得られない方の場合)、MRSが簡単は行えない施設も多いため、検査への敷居が高いのが問題です。
生化学的検査では、以下が有用です。クレアチンとクレアチニンは混同しやすいのでご注意を。
GAMT欠損症:グアニジノ酢酸(尿、血清、髄液いずれも高値。当方で測定可能)、血清クレアチン(低値のことが多い、検査会社で可能)
クレアチントランスポーター欠損症:尿中クレアチン/クレアチニン比(男児のみで高値、検査会社で可能)
尿中クレアチン/クレアチニン比の感度はほぼ100%であり、スクリーニングに最適です。発達に問題をかかえた男性患者では、一度調べてみるのがよいでしょう。ただし、偽陽性が多いので、上昇していたとしても再検査は必須です。一度でも基準値内であれば、クレアチントランスポーター欠損症は否定的です。再検査を繰り返して異常が続くようであれば、頭部プロトンMRSに進みます。
なお、血清中クレアチンには異常が出ませんので、ご注意ください。
AGAT欠損症の診断にもグアニジノ酢酸が有用ですが、病的低下を証明する必要があり、高感度測定でないと異常を証明するのは困難です。世界的にも極めて稀な疾患であり、現状ではMRSで異常をみとめ、かつ上記の2疾患ではないことから疑うのが現実的かと思います。
クレアチントランスポーター欠損症の女性では、尿中クレアチン/クレアチニン比は正常範囲であり、頭部MRSの異常も軽いことが多いため(正常な場合もあると思われます)、確定診断には遺伝子解析を要します。
いずれの疾患も、最終的には遺伝子検査(かずさDNA研究所で可能、保険非適応)で診断を確定します。
脳クレアチン欠乏症候群は、小児慢性特定疾病、指定難病に指定されています。
GAMT欠損症に関する当方のプレスリリース記事はこちら。